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機能的脳神経外科

機能的疾患の代表的な手術としては、三叉神経痛や片側顔面けいれんに対する微小血管減圧術(MVD)、各種の頑痛(難治性疼痛)に対する脊髄刺激(電極留置)や脊髄後根切断術、てんかんに対する手術、パーキンソン病などに対する深部脳刺激(電極留置)、痙縮に対する手術などがあります。
現在、当施設では微小血管減圧術(MVD)を中心に手術を行っていますが、今後はてんかん手術、深部脳刺激術などのneuro-modulationの分野も発展するものと思っています。

三叉神経痛

三叉神経痛の痛みは、顔面の片側に一瞬(数秒〜数十秒)の突発的な激痛が走ることが特徴です。その痛みは洗顔、お化粧、ひげ剃り、食事や歯磨きなど、日常生活上の様々な動作で誘発されます。また、鼻の横など、触ると顔面にぴりっとした痛みが誘発されるトリガーポイントがある場合は三叉神経痛の可能性が高いです。このように三叉神経痛の痛みは特徴的であり、当科ではこの病気の診療に慣れた医師が詳しく問診を行って、正確に診断します。
三叉神経痛は、顔面の知覚を支配する三叉神経に血管が接触し圧迫することが主な原因ですが(特発性三叉神経痛)、まれに脳腫瘍が原因となることがあり(症候性三叉神経痛)、その場合は脳腫瘍を外科的に切除することが必要です。
特発性三叉神経痛の場合、まずはカルバマゼピン(商品名:テグレトール)の内服治療で疼痛のコントロールを図りますが、徐々に薬が効かなくなることも稀ではありません。ペインクリニックで三叉神経ブロックを受けておられる患者さんにも相談を受けますが、注射を繰り返しても徐々に効果が薄れてきたり、顔面のしびれが残ったりして、次第に日常生活に支障を来たします。当科では、こうした患者さんに対し根治的治療である微小血管減圧術をお勧めします。手術では、耳の後ろの皮膚・筋肉を切開して小さな骨窓を開け、顕微鏡下に三叉神経を圧迫する責任血管(主に上小脳動脈)を転位させることで、痛みを完全かつ永久的に取り除きます。一方、既往疾患などにより全身麻酔での手術が困難な場合には、定位放射線照射(ガンマナイフ)で痛みを軽減あるいは消失させることも可能です。

図1 三叉神経を圧迫する上小脳動脈
図2 微小血管減圧術

片側顔面けいれん

この病気は、顔の半分が自分の意思とは関係なくけいれんするようになります。最初のうちは疲労などで瞼がぴくぴくする症状との区別が困難ですが、多くは目の周囲(眼輪筋)から始まって次第に口元(口輪筋)まで広がり、やがて顎の下の筋肉(広頚筋)までけいれんするようになります。病気自体は生命にかかわるものではありませんが、緊張でけいれんが誘発されるという特徴もあり、対人関係に苦労し、仕事上も他の人と会うことに支障が生じるようになります。
片側顔面けいれんは、顔面の筋肉(表情筋)の動きを支配する顔面神経に血管が接触して圧迫することが原因で起こります。三叉神経痛と異なり、この病気によく効く内服薬はありません。ボツリヌス毒素(商品名:ボトックス)を表情筋に注射してけいれんを緩和させる方法もありますが、3か月程度で効果はなくなり、繰り返し注射を受けることになります。当科では、この病気に対し根治的治療である微小血管減圧術を積極的に行っています。手術では、耳の後ろの皮膚・筋肉を切開して小さな骨窓を開け、顕微鏡下に顔面神経を圧迫する責任血管(前下小脳動脈、後下小脳動脈や椎骨動脈)を転位させることで、けいれんを完全かつ永久的に取り除きます。
外来では、ボツリヌス毒素治療と手術療法(微小血管減圧術)それぞれの長所・短所について詳しく説明し、患者さんに十分納得して治療法を選んでいただくよう努めておりますので、いつでもお気軽にご相談ください。

図 顔面神経を圧迫する後下小脳動脈(B)
図 微小血管減圧術

脊髄刺激療法(SCS)

原因が分からない痛みや、治療が困難な難治性疼痛・慢性痛に対して脊髄刺激療法を行っています。
痛みは色々な原因によって起こりますが、多くの場合は原因となる病気を治療して痛みを和らげたり、鎮痛剤や湿布などで対応することで解決されます。他には神経ブロック、認知行動療法、リハビリテーションなどの治療法があります。しかし、一部の痛みはこれらの治療に抵抗性です。他の治療で治りにくい痛みが慢性化した場合、特に神経の障害によっておこる痛み(神経障害性疼痛)は機能的神経外科手術の適応にもなります。
具体的には以下の病状が脊髄刺激療法の適応となります。

など

脊髄刺激療法の機序

脊髄刺激療法とは痛みを緩和することで生活の質(QOL)を向上し、痛みにより失われた日常を取り戻すことを目的とします。痛み刺激が加わると、神経に痛みの信号が生じて脊髄を通り脳に伝わります。脳に伝わってはじめて「痛い」と感じます。しかし、色々な原因で神経が障害されると異常な痛みの信号が神経に現れて、刺激がなくても痛みを感じる、いわゆる神経障害痛が生じます。脊髄刺激療法は神経障害痛に有効な治療法であり、脊髄に微弱な電流を流すことで異常な痛みの信号を脳に伝わりにくくすることで痛みを和らげる治療です。

脊髄刺激療法が、自分の痛みに合う治療かどうかを判断することは、非常に難しいです。症状や痛みの種類などにより、脊髄刺激療法の効果が大きく異なります。背中にリードと呼ばれる導線だけを挿入して、効果を体験してから、機器を植込むかどうかを検討することも可能です。(トライアル)

病気や怪我で生じた身体の異常に加えて、心理ストレスや社会問題の影響も痛みに関係します。そのため、外来では、まず、これらの要因を考慮して、ひとりひとりに合わせて方針を考える必要があります。脊髄刺激療法がよいか、ほかの方法が良いかを検討する段階から、いつでもお気軽にご相談ください。

対象疾患

脳腫瘍
小児脳神経外科
脊髄脊椎
脳血管障害
機能的脳神経外科
特発性正常圧水頭症