わが国は現在、8人に一人が75歳以上といまだかつてない超高齢者社会を迎えており、認知症の患者さんも年々増加しています。この中で「治療可能な認知症」の患者さんがいるということで特発性正常圧水頭症が注目されています。
“水頭症”とは、脳脊髄液の循環や吸収が障害されて頭の中に貯留する疾患で、大人から子どもまでさまざまな原因で起こります。“特発性”というのは原因不明ということです。続発性正常圧水頭症という疾患もあり、これはくも膜下出血や頭部外傷など原因がはっきりしているものです。水頭症になると本来は頭の中の圧が上昇しますが、このタイプの水頭症は圧が上がりにくいので“正常圧”という名前がついています。高齢者ではこの“特発性正常圧水頭症”が生じることが以前より知られていましたが、現在では診療ガイドラインが刊行され疾患概念がきちんと確立されるに至っています。当科でもこのガイドラインにのっとった診療を行なっています。
認知症、歩行障害、尿失禁が3つの主症状です。歩行障害がもっとも多くみられる症状で、治療で一番改善しやすいのもこの歩行障害です。これらの症状やMRIで特発性正常圧水頭症が疑われた場合、多くの患者さんで髄液排除試験を行います。これで症状が改善する場合には手術の効果が期待できるため次に述べるシャント手術を行うことになります。
手術は、腰椎くも膜下腔-腹腔シャント術(L-Pシャント術)を基本としています。腰椎と腹腔をシャントチューブでつないで、余分な脳脊髄液をおなかに流すものです。シャントチューブには圧調整バルブがついており、必要に応じて圧を変更して流量を調節します。手術時間は約2時間で、高齢の患者さんに対しても低侵襲な治療法です。シャントチューブが入っていても日常生活には何ら支障がありません。
わたしたちは、特発性正常圧水頭症の診療にはチーム医療が欠かせないと考えています。神経内科医による正確な診断、脳神経外科医の丁寧な手術、リハビリスタッフによる効果的なリハビリ、看護師の愛情、そしてご家族の温かい支援によって患者さんの社会復帰を目指します。
わたしたちの施設は、特発性正常圧水頭症における症状改善のための臨床研究(SINPHONI-3)に参画しています。